3番扉の裏っかわ

3番扉の裏っかわ

気ままにつづる猫一匹と一人の暮らし

部長と私の五年にわたる戦争が終結しなかった話

彼の選択肢はいつもひとつ

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仕事の都合上、普段は一人本社から離れたところでいることが多くて というかほぼ毎日そうなんですけども

時々マンガみたいな小太り中年の部長が真冬でも汗水たらして外を歩き(電車使って)
いかにも『わしもがんばっとるで!』みたいな顔で「どや」って顔出しにくるわけなんですが(そんなとこ頑張らんでええから電車使って)(給料上げて)
まぁお互い親子のような歳でもあるからか 一応こまめに若手を気遣ってあれやこれやと差し入れしてくれるわけなんですよ。

大体ちょっとええとこのおはぎとかおはぎとかあとおはぎとか

1個だけ買うのもケチくさいからって私ひとりなのに3個とか余裕で買ってきてくれるんです ええ部長でしょ。

で私は毎回「ワァ~~いいんですか!?ありがとうございます!」ってお決まりのセリフとかわいい部下モード全開でそれを受け取るわけなんですが
そんなやりとりを大体2週間に1回ぐらいのペースで繰り返していたわけなんですが

この会社に入ってはや5年 部長にね ずっとずっと言えなかったことがありましてね

 


あんこ食べらないんです わたし

 

 

孤軍奮闘の五年間

私がこの会社に入って間もないころ やっぱりちょっと離れた客先の事務所に詰めていたんですが
その頃まだ直属の上司ではなく 名前すらちゃんと覚えてなかった部長が突然事務所にやってきて

「よかったら食べて!はい!」

ってね初めての差し入れをくださったんですね。そう おはぎ
たとえばね?そこに私以外の誰かがいればね?その人に受け取ってもらって

「ハイバンコさんも!」
「ワァ~ありがとうございます!アッ実はわたしあんこ食べられないんです…お気持ちだけいただきますね、みなさんでどうぞ!」
「おやバンコさんあんこアカンのか?次から違うのにするわ!アッハッハ!!」


とかなんかそういう平和的な流れでおはぎがこの手に渡るのを回避しつつ さりげなくコイツあんこアカンねんなってアピールが同時にできたと思うんですけどね

まだ入社して数ヵ月のぺーぺーがたった一人しかいない事務所で 他でもないそんなわたしオンリーに向けて部長から差し出されたおはぎに対して「アッわたしあんこダメ以下略」とか言っちゃったらえらいことですよ。

部長のパッツパツの腕にぶら下がるおはぎ行く場所ないからねもう
回避不能ダメージ確定のダイレクトアタックだからねもう


そのままズルズルと食べられもしないおはぎをワァ~~って受け取り続けて5年

部長はわたしがおはぎを大好きだと思い続けて5年

いっそ何もかも投げ捨てて言いたい言ってしまいたいけど言えない

 


あんこ食べられないんです わたし

 

 

そうだ、パウンドケーキ買おう

…ここまでの話を昼休みにラーメン食べながら先輩についに打ち明けたのが2カ月ほど前


5年間言えないままおはぎを受け取り続けてきた私にも 5年間ブレずにおはぎを差し入れ続けてきた部長にもドン引きしながら先輩は言いました。

「部長はバンコちゃんがおはぎを喜んでると思うから買ってくるんやから おはぎ以外のものならもっと嬉しいってことをアピールしたらええんちゃう

ラーメン飲み込むのも忘れて目からウロコぽろっぽろ私
実は無理なんです黙っててゴメンナサイ するのではなく

もっと好きなものをアッピールすることで円満におはぎを回避しつつ本当に自分が食べたいおやつをゲットできる

これだ!!

しかしこの作戦を実行に移すにはタイミングが重要

部長がおはぎを持ってきた時に堂島ロールおいしいですよね~」とか当たり前だけどそれはそれでご気分を害してしまう。
更におはぎの上位互換となる次なる差し入れとして 部長の行動範囲内で無理なく買えるお店・おやつを吟味してピンポイントでアピールしなければならない。
慎重に…慎重に進めるんや…!

 

 

決着は突然に

先輩からのナイスアイディアを受け ラーメンの汁1滴まですすりながら真剣に作戦を練っていたその昼休み明け

たまたま先輩も同じ事務所にいたタイミングで

「どや」

とか前触れもなく汗だくでやって来るから部長は本当に部長だよ!!今12月だよ!!

お願いやから電車使って

いやしかしさすがに心の準備も情報の準備もできてないぞ

焦りは禁物…次の機会に…

とこのチャンスは見送るつもりで他愛もない話をしている中

「部長知ってます?本社近くの○○橋の傍においしいパウンドケーキの店があるんですよ~~」

!!!!!!

(先輩!!!!)
(エッ今!?今なんですか先輩!!)
(今まさに!!わたし乗っていいんですかそのビッグウェーブに!!!

「いいですねパウンドケーキ~~!!わたしメッチャ好きです!!そんなとこにおいしいお店が~~~!!?」

愛想笑いでおはぎを喜ぶフリを貫いてきた5年間のテンションを吹っ飛ばす勢いで

それはもう全力で

乗るしかないんやこの波に!!


先輩が繰り出す嘘か本当かわからないオススメ情報に必死にポジティブ相槌を挟みながらパウンドケーキコールを繰り返すこと数分

「ほな次はそれ買ってこよか」

苦節5年

私と部長の長い長いおはぎ戦争が幕を閉じた瞬間でした

 

 

おれたちのたたかいはこれからだ

それからの日々は穏やかなもので

無事パウンドケーキにシフトチェンジした差し入れを持って部長がやってくるのをわたしはやっと 心からの笑顔で出迎えることができるようになったわけです


ありがとう先輩 ありがとう○○橋のケーキ屋さん

アールグレイのパウンドケーキめっちゃおいしい

 


そして先週末 しあわせな金曜日の昼下がり
久々にやってきた笑顔の部長が差し出した少し懐かしい紙袋に思わず

「おっふゥ」

とか言わなかったわたしを褒めてほしい誰か

 


「ケーキ屋さん移転してしもてな~~はいおはぎ!!」

 

 




部長 あのね

あんこ食べられないんです わたし



まだ言えてない